要約
Agent Skillsは、専門的な手順や知識をフォルダにまとめ、必要な時だけ動的に読み込むことで、汎用AIを特定タスクのスペシャリストに変換する機能である。2025年10月にAnthropicが導入し、同年12月にはオープンスタンダードとして公開された。3層プログレッシブ開示アーキテクチャにより、トークン効率を最適化しながら、事実上無制限のコンテキストを提供できる点が特徴である。
対象読者: Claude Code、Claude.aiを活用しているエンジニア、AIエージェントの自動化に興味がある開発者
検証環境: Claude Code 2.0.76 / Agent Skills対応バージョン(2025年12月時点)
この記事を読むことで得られるメリット
この記事を読むことで以下のことが分かる:
- Agent Skillsの定義と役割(何ができて、何が変わるのか)
- 3層プログレッシブ開示アーキテクチャの仕組み(なぜトークン効率が良いのか)
- 自動呼び出し(セマンティックマッチング)の動作原理
- CLAUDE.md、プロンプト、プロジェクトとの違いと使い分け
- MCPとの関係性と補完的な活用方法
この記事を読むのにかかる時間
約12分
環境
- MacOS Apple M4 Max Sequoia 15.1
- Claude Code 2.0.76
- Claude Pro / Max / Team / Enterpriseプランのいずれか
Agent Skillsとは
公式の定義
Anthropicは、Agent Skillsを次のように定義している。
Agent Skillsは、エージェントがダイナミックに発見・読み込みできる指示・スクリプト・リソースの整理されたフォルダです。あなたの専門知識を再利用可能なリソースにパッケージ化し、汎用エージェントを専門エージェントに変換します。
つまり、Agent Skillsとは「何を知っているか」ではなく「どうやるか」を教える仕組みである。従来のプロンプトが「今この瞬間の指示」であるのに対し、Skillsは永続的な手続き的知識として機能する。
具体的には、以下のような要素で構成される:
- SKILL.md: スキルの内容や使い方を記述したMarkdownファイル(必須)
- 関連ファイル(オプション): スクリプト、テンプレート、リファレンスドキュメントなど
これらをフォルダにまとめておくことで、Claudeは必要な時に自動でスキルを発見し、読み込んで実行できる。
歴史的経緯
Agent Skillsの重要なマイルストーンは以下の通りである。
時期 | 出来事 |
|---|---|
2025年10月 | Anthropicが Agent Skills機能を導入 |
2025年12月18日 | オープンスタンダードとして公開(agentskills.io) |
オープンスタンダード化により、作成したSkillsはClaudeにロックされない。同じSkill形式は、標準を採用するAIプラットフォームとツール全体で機能する設計となっている。これはMCP(Model Context Protocol)と同様のベンダー中立の哲学に基づいている。
利用可能なプラン
Agent Skillsは、以下のプランで利用可能である:
- Pro: 個人向け有料プラン
- Max: 上位個人向けプラン
- Team: チーム向けプラン
- Enterprise: 企業向けプラン
無料プランでは利用できない点に注意が必要である。また、Claude.ai、Claude Code、Claude APIのいずれでも同じSkill形式を利用できる。
Agent Skillsの仕組み
3層プログレッシブ開示アーキテクチャ
Agent Skillsの最大の特徴は、**3層のプログレッシブ開示(Progressive Disclosure)**システムである。これにより、トークン効率を最適化しながら、必要な情報だけを適切なタイミングで読み込む。
Layer 1: メタデータ(約100トークン)
起動時に読み込まれるのは、すべてのインストール済みSkillsの名前と説明だけである。これにより、Claudeは各Skillがいつ関連するかを把握できる。
---
name: pdf-processing
description: PDFファイルからテキストや表を抽出し、フォームに記入し、文書を結合します。
---
このメタデータだけで約100トークン程度であり、大量のSkillsをインストールしていてもオーバーヘッドは最小限に抑えられる。
Layer 2: フル指示(5,000トークン未満)
タスクがSkillに一致するとClaudeが判断した場合にのみ、SKILL.mdファイル全体を読み込む。ここには詳細な手順やプロセスが含まれている。
# PDF Processing
## 使用手順
1. まずファイル形式を確認
2. テキスト抽出を実行
3. 必要に応じてフォーム記入処理
## 制約事項
- 暗号化されたPDFは処理不可
- 最大100ページまで
Layer 3: バンドルリソース(オンデマンド)
追加のファイル、スクリプト、テンプレートは、具体的に必要になった時だけ読み込まれる。
pdf-processing/
├── SKILL.md # Layer 2で読み込み
├── FORMS.md # 必要に応じて読み込み
├── reference.md # 必要に応じて読み込み
└── scripts/
├── fill_form.py # 実行時のみ(コードはコンテキストに入らない)
└── validate.py # 実行時のみ
この仕組みは、Pythonのimport文に例えることができる。すべてのライブラリを最初から読み込むのではなく、必要なモジュールだけを必要な時にインポートする。これにより、Skillsは事実上無制限のコンテキストを含められる。ファイルはアクセス時のみトークンを消費するためである。
自動呼び出しの仕組み(セマンティックマッチング)
Skillsの呼び出しは完全に自動である。ユーザーが手動で「このスキルを使って」と指定する必要はない。
Claudeはセマンティック(意味的)マッチングを使い、ユーザーのリクエストとSkillsの説明を照らし合わせる。これはキーワードマッチングではなく、文脈上の関連性を判断する。
動作例:
- ユーザーが「コミットメッセージを作って」と入力
- Claudeがインストール済みSkillsのメタデータを確認
- 「コミットメッセージ生成」スキルの説明が関連すると判断
- 該当スキルのSKILL.mdを読み込み
- スキルの手順に従ってタスクを実行
複数のSkillsが同時に活性化することもある。例えば、「PDFから表を抽出してExcelに変換して」というリクエストでは、PDFスキルとExcelスキルの両方が活性化する可能性がある。この過程は思考チェーン内で確認できる。
Agent Skillsの4つの利点
Anthropicは、Agent Skillsの主な利点として以下の4つを挙げている。
コンポーザブル(Composable)
複数のSkillsを自動的に連携させられる。1つのタスクで複数のスキルが協調して動作し、複雑なワークフローを構築できる。
ポータブル(Portable)
Claude.ai、Claude Code、APIで同じ形式が使える。一度作成したスキルは、プラットフォームを問わず再利用可能である。さらに、オープンスタンダード化により、他のAIプラットフォームでも利用できる可能性がある。
効率的(Efficient)
3層プログレッシブ開示により、必要な時だけ必要な情報を読み込む。大量のスキルをインストールしていても、実際に使用するスキルのみがトークンを消費する。
パワフル(Powerful)
決定論的な操作を実行できるコード(Pythonスクリプトなど)を含められる。LLMによる生成ではなく、確実な処理が必要な場面でスクリプトを活用できる。スクリプトを実行しても、コード自体はコンテキストに入らず、出力のみがトークンを消費する。
既存機能との違い
Agent Skillsと似た機能として、CLAUDE.md、プロンプト、プロジェクトがある。それぞれの違いを明確にしておく。
CLAUDE.mdとの違い
項目 | CLAUDE.md | Agent Skills |
|---|---|---|
読み込みタイミング | 常に読み込み | 必要な時だけ読み込み |
対象範囲 | プロジェクト全体のガイダンス | 特定タスクに特化 |
プラットフォーム | Claude Codeのみ | Claude.ai、Claude Code、API全て |
含められるもの | Markdownのみ | Markdown + スクリプト + リソース |
CLAUDE.mdは、コーディング規約やローカルワークフロー、一般的なコマンドなど、プロジェクト固有のグローバル設定に適している。一方、Agent Skillsは特定のタスクに対する専門的な知識をパッケージ化するのに適している。
プロンプト・プロジェクトとの違い
項目 | プロンプト | プロジェクト | Agent Skills |
|---|---|---|---|
永続性 | その場限り | 会話履歴として蓄積 | 永続的に保存 |
読み込み | 毎回入力が必要 | プロジェクト内で有効 | 自動で発見・読み込み |
詳細度 | 簡潔な指示 | ドキュメント蓄積 | 詳細な手順+コード |
プロンプトは1回限りのタスク用の会話レベルの指示であり、Skillsはオンデマンドで読み込まれ、複数の会話で同じガイダンスを繰り返し提供する必要がなくなる。
プロジェクトは時間の経過とともにコンテキストが蓄積されるときに意味を持つ。例えば、計画が進化する製品リリース、過去の調査結果に基づくリサーチなどである。Skillsはどこでも使え、一度作成すればあらゆる会話で利用できる。
MCPとの関係(ハードウェアストアの例え)
MCP(Model Context Protocol)とAgent Skillsは補完関係にある。Anthropicはこれを「ハードウェアストア」に例えている。
- MCP = 通路へのアクセス(在庫・道具を取りに行ける)
- Skills = 従業員の専門知識(どの道具をどう使うか知っている)
項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
提供するもの | 専門知識(How) | 接続(What/Where) |
実装レベル | ファイルシステム | API統合 |
初期読み込み | 軽量(メタデータのみ) | 全ツール定義を読み込み |
メンテナンス | ファイル編集のみ | エンドポイント管理が必要 |
MCPは外部データソースやツールへの接続口を提供し、Skillsはその接続をどう使うかという知識を提供する。例えば、「週報を作成してSlackに投稿」というタスクでは:
- MCP: Googleカレンダー、Slack、Notionへの接続を提供
- Skills: どのデータをどの順番で取得し、どうまとめるかの手順を提供
両者を組み合わせることで、データアクセスから専門的処理までの完全なパイプラインを構築できる。
まとめ
Agent Skillsは、AIエージェントの能力を拡張する構造化された方法を提供し、「知識」から「実行可能なワークフロー」へのパラダイムシフトを実現する。
本記事で解説した重要なポイントを振り返る:
- 定義: 専門的な手順や知識をフォルダにまとめ、必要な時だけ動的に読み込む機能
- 3層アーキテクチャ: メタデータ→フル指示→バンドルリソースの段階的開示でトークン効率を最適化
- 自動呼び出し: セマンティックマッチングにより、ユーザーの意図を理解して適切なスキルを自動起動
- 4つの利点: コンポーザブル、ポータブル、効率的、パワフル
- 既存機能との違い: CLAUDE.md(常時読み込み vs 必要時のみ)、プロンプト/プロジェクト(一時的 vs 永続的)
- MCPとの関係: 接続(MCP)+知識(Skills)の補完関係
オープンスタンダード化により、Agent Skillsは企業のAI活用戦略において中核的な役割を担う技術として位置づけられている。
次の記事では、Agent Skillsの具体的な作成方法とベストプラクティスについて解説する。